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何が幸せか

 3年ほど前の晩春にスイスを一人で旅した。素晴らしい景色だったことは言うまでもないがその時感じたことを一つ書いてみたい。


 インターラーケンから電車に乗り、日本人にも良く知られた観光地グリンデルワルトへ向かう線路の途中にルッチェンタールという駅がある。グリンデルワルトの手前3つ目の駅だ。ここに訪ねたい場所があったのでこの駅に降りた。そして驚いてしまった。


 田舎の駅なので無人駅だ。駅の売店もない。だが驚くのはそれだけではなかった。駅前に商店が一軒もないのだ。小さなレストランが一軒あったがたったそれだけで、それ以外は民家しかないのだ。駅前がそうだから当然村の中にもコンビニも商店も一軒もない。またスイスには自動販売機といった便利だけど無粋な物は初めからないのでちょっと喉が渇いたからと言ってもどうしようもない。


 でもこの村は寂れている訳ではない。家々は大きくてきれいだし、子供たちも牧草地を走り回っていた。ただ単に物を売っている所がないのだ。何かを購入するということができないのだ。


 この村を歩いて思ったのは「ここに生まれたら幸せか?」ということだった。確かに景色は抜群にいいし、水も空気も旨い。夏は花に囲まれ、冬は一面の銀世界だ。線路と車道を離れて村の道を歩けば牛の鳴き声しか聞こえないような静かな世界が拡がっている。一旅行者の目で見れば理想郷のような所だ。しかしここで暮らすとなったら相当な不便さを覚悟しなければならないだろう。買い物は電車か車で下の町インターラーケンまで出なければならないし、コンサートやスポーツ観戦など文化的な活動を欲すればさらに不自由だろう。


 私たちは便利な都会に暮せば牧歌的な田舎に憧れるし、またその逆のことも言える。「ないものねだり」は人間の常だが「過ぎたるは及ばざるがごとし」と言うとおり、どちらかに極端なのはあまりよろしくない。何が幸せか?は人によって意見が異なるだろうがやはり何事もほどほどが良いと思った。Y.S.


  Lutchental.jpg

ルッチェンタールの家並み(2005年4月末撮影)