山の好きな人間にとって冬の上高地はちょっとした憧れになっている。カレンダーや絵葉書で良く見かける雪に覆われた穂高連峰をぜひ自分の目で見たいという思いからだ。
上高地は通年マイカー規制されていて、沢渡(さわんど)からはバスやタクシーで入らなければならないし、そもそも冬は上高地への入口である釜トンネルが諸車通行止めだ。しかも松本から高山に抜ける国道158号線もかつては沢渡で冬季通行止になった。このため冬に上高地に入るには沢渡から歩き始めなければならなかった。
ところが1997年に安房(あぼう)トンネルが開通して158号線の冬季通行止めが解かれた。相変わらず釜トンネルからは歩かなくてはならないが沢渡からの長い国道歩きはなくなった。ここ10年で冬の上高地がかなり近くなったのだ。トレースがしっかり付いていれば河童橋までの日帰りも充分可能になった。
私は昨冬に上高地で年越しをしようと考えて大晦日から上高地に入った。しかし3日間雪がやまず、穂高はずっと姿を現さなかった。そこで今冬は作戦を変え、天気予報を見ながら入山日を決定することにした。今冬は山陰や東北地方で豪雪となったが長野県はそれほどでもなく、しかも1月2日~3日は冬型気圧配置が緩んで上高地も好天が期待された。そこで2日早朝に出発した。
予想通り2日は歩くに従って徐々に青空が拡がってきた。が、天候の回復はゆっくりで2500mから上の雲が取りきれず、河童橋からの穂高の眺めは今ひとつだった。しかし翌3日は未明から快晴に恵まれた。大正池の左岸には黎明の穂高連峰をカメラに納めようとするアマチュアカメラマンの三脚が林立した。梓川の川面には薄っすらもやが掛かり、また氷点下10数度の寒さでできた霧氷のおかげで木々は桜の花が満開になったようだ。
やがて日が昇り、東を向いた西穂高岳から奥穂高岳への稜線と右端の明神五峰が赤く染まってきた。時折もやが晴れた水面には穂高の峰々が逆さに写り、正に絵葉書と同じ光景が展開した。あちこちで静かな歓声が上がり、殆どの人が今ここにいることの幸運を味わった。
日が昇りきると段取りを心得たカメラマンたちは次の撮影場所である田代湿原や河童橋方面に向かって行った。我々は朝食後帰路についたが歩きながら何度も振り返って上高地のこのみごとな風景を頭の中のメモリーに記憶した。Y.S.![]()
河童橋と焼岳(やけだけ)
大正池からの穂高連峰
満開の桜のような霧氷
大正池堰堤付近から穂高連峰

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